SSブログ

近代建築史「折衷と廃墟、19世紀英国」 [建築の歴史]

前回の授業で見た『去年マリエンバートで』の解説から。



--まるで床が砂か砂利か敷石であるかのように、その上を私は歩いてきた。 廊下を歩き、この建物の広間や回廊を通り抜け、バロック風の巨大で不気味なこのホテル の廊下は果てしなく続く。 静かな部屋で足音は厚い絨毯に吸い取られ、歩く当人でさえも何も聞こえない。 まるで耳自体が・・・。 廊下をずっと歩いていけば、古い時代の建物の広間や回廊をよぎる。 大理石、黒いガラス、黒っぽい絵、円柱、縁取りのある一連の扉、一連の回廊、交差する 廊下。 廊下は無人の広間に通ずる。広間は古い時代の装飾過多。 無人で静かで、冷たい装飾が過剰で、化粧漆喰や、くり形の鏡板(字幕から引用)--

映像、音声(と編集)の「非」同期性が映画の本質のひとつ

「非」同期とは、映像とBGMがリンクしていない、ということ。
たとえば音楽を変えることで、同じ映像でも10年前を感じさせたり、パリの映像でありながら日本を表現したりできるということ。それらの編集で、映画にしか出来ない表現ができる。
映画を撮るときに、ラストシーンから撮ることだって演劇には出来ないことだし、役者の時間をかく乱させる、というのも映像ならでは。

映画監督アラン・レネは「非同期」の天才だった。
『24時間の情事』 時間のマジックとはこのことらしい!

(めっちゃいいとこ拾ってきた!)
冒頭の「女」が鏡に向かって話すシーン。鏡に映る「女」の映像と音声の非同期。ここで人格がスイッチする。
4:50から「女」が広島の市街地を歩くところでは、故郷ヌベールの映像がカットインされて記憶の同時併存性が表現されている。(というか、1950年代の広島というだけで貴重なのだ)

「去年マリエンバートで」は、そのRemixを徹底的に行い4つのレイヤー(1.現在、2.Xの回想、3.Aの回想、4.過去)を複雜に構築した。僕は二回見ても分からなかったけど、そういうことなのだ。

学生の「去年マリエンバートで」の感想に「死後の世界みたいだ」という感想があった。
それは面白い視点で、様式は(死なない幽霊)だから、幽霊のリミックスが今日の「折衷主義」と深く関係している。

というわけで、第五回 近代建築史「折衷と廃墟 19世紀英国」

1:Eclecticism 折衷主義 折衷主義はとんでもない文化。BLADE RUNNER

和洋折衷の「折衷」 和食も洋食も中華もmixする日本の食卓のように、19世紀になると、建築様式が選べるようになった。ギリシャ、ローマ、ゴシック、バロックと、幽霊を召喚。
様式を取捨選択することで、時代の相異なり矛盾する要素までをもまとめられるようになったので、
エディット、つまり編集の技術こそが力量の基準になるようになった。
「選択可能性と均質性、建築における交換価値」
(交換価値とはマルクス経済学において、市場におけるそのつど決定される価値のこと)

折衷主義的なSF映画 "BLADE RUNNER1982"


それまでのSFでは、ファッションも建築も、あらかじめ想像された「未来像」があった。しかしブレードランナーでは、あらゆる時代のファッションがごちゃ混ぜであり、建築も折衷で、「どの時代か分からない」。モダニズム超えてポストモダンまで一気に来てしまった。

折衷主義の建築は、ジョン・ソーン美術館(自邸)
john-soane.jpeg
外から見るぶんにはふつう。
(画像:http://homepage.mac.com/kch_kato/paris/photo/londre-photogallery.html
ジョン・ソーン(1753-1837)、彼は折衷主義のマスター。丹下健三みたいなスター。
ソーン博物館には、あらゆる様式がごちゃ混ぜになっている。
Soane House7.jpeg
ギリシャみたいな柱もあれば、
Soane House8.jpeg
わりと最近ありそうな部屋もあったり。
ほんとに同じ屋根の下か?
授業で見たスライドはもっと凄かった。磯崎新 篠山紀信「建築行脚11 貴紳の邸宅」という本に詳しい写真がある。

スクリーンショット(2011-10-28 21.54.26).png
遷移図。最初に左の家を買って改造して、中の家も買って壁を抜いて、最後は三軒分のボリュームになっている。ソーン自邸は、自邸から博物館へリノベーション繰り返すうちに公共性を獲得していった。いろんな様式を分離させながら混在させている。ソーンはモダニストでもあったから外見は落ち着いている。上品な枠組みを作って様式のカタログを展示。しかし、どれだけ金がかかっているんだ。

地下一階 平面
スクリーンショット(2011-10-28 21.55.11).png

一階平面
スクリーンショット(2011-10-28 21.55.35).png

二階平面
スクリーンショット(2011-10-28 21.55.11).png

なんともインパクトのある平面図

絵画室、何層にもなる絵画扉。絵画天井がすごかった!天蓋に薄いフリース。吹き抜け。
地下は古代ゾーン。エジプトの棺からお面、色んなものが集められた。

ソーンは自邸を画家に描かせていた。
File-Soane's_house_-_loggias_before_glazing.jpeg

Bank of england4.jpeg
ちなみにこれはイングランド銀行。多摩美の図書館みたい。
ジョン・ソーンは辰野金吾でもあった。

問1 なぜ異質な様式を混在できるのだろうか。その方法とは何か

新聞紙について。アメリカの政治学者ベネディクト・アンダーソンは、「新聞の発生が国民国家の形成だ」と言った。国民国家は、同じ時間・空間を共有する我々がいると感じることで成立する。その例として、新聞を挙げている。「新聞を賑わすさまざまな事件は相互に何の脈絡も無いはずだが、しかしそれらが同時に並べられることによって、ある一体的な空間が生まれてくる。」

新聞のように異なる事件(=様式)をエディットしたのがジョン・ソーン邸ということなのだろうか。あらゆる様式がユークリッド平面上に置かれる、それが折衷主義。その均質なユークリッド平面こそがモダニズムゆえに、モダニズムは必然だったのだろうかと思わざるをえない。


2ピクチャレスクと廃墟
Turner Tintern1.jpeg
The Chancel and Crossing of Tintern Abbey, Looking towards the East Window 、J. M. W. ターナー、1794年

ピクチャレスクとは、18世紀にイギリスで流行った美的概念。
人工美でなく、自然美を重視した。しかし実際は人工的に作られた自然であって、どこか矛盾している。このころから、建築に造園が介入する。「不規則さ」「絶えなき変化」が特徴の1つでもあり、アルゴリズミックデザインとかもここから派生。

「sublime(崇高性)」が背景にある。
私たちは、圧倒的なもの、とてつもなく大きなものを目の前にしたときに、圧倒され、ふと美を感じてしまう。
カントの「美とは目的なき合目的性」とは異なる「美」の定義。
そういえば、ダンサー・振付家の山田うんさんが即興で踊るダンスは、目的がないんだけど必然があるように見えた。目的なき合目的性ってこれか!って思った。

問2 ピクチャレスクの庭園には必ずといっていいほど廃墟がある。なぜか?

→人間の手を経て、自然化したものでないと、自然と手を繋いではいけない。
人工物=ダメという美意識の中で人工物を作る場合には、人工物を「自然化」するしかない。理論上はそうなる。人工物が長い年月を経て自然化したものは、すなわち廃墟である。
デザインされていない庭園、ピクチャレスクは日本庭園から大きな影響を受けている。
スクリーンショット(2011-10-29 0.21.47).png
ピラネージの銅版画「ローマの景観」
ピラネージの描くローマは、かつての建築が遺跡となり、半分は地中に埋まっている。昔の人工物が「自然」になっていて、それに今の人工物が寄り添っている。この在り方はピクチャレスクに大きな影響を与えた。

そうやって考えると、今の植物と建築の問題も、200年前からあった。
ビエンナーレ日本館の植物園や、現代のエコロジーの問題にも繋がる。
現代との繋がりが見つかると楽しい。

ここで、ジョン・ソーンのお抱え画家だったジョセフ・マイケル・ガンディの「イングランド銀行」の鳥瞰図を見よう。
イングランド銀行.jpg
「1830年のイングランド銀行」
完成したばかりなのに、廃墟になった時の姿を描かせるというのは、完全にピラネージの影響だ。

それを真似したのが磯崎新の「つくばセンタービル」
2011-09-29.jpg
画像:http://d.hatena.ne.jp/ken106/20110929
設計と同時に、廃墟になったセンタービルの模型も想像して作った。廃墟志向の表れ。本人も、参照したと言っているそうだ。


そして!再び!ブレードランナーのラストシーンを見る。


死なないレプリカント(人造人間)が人間を助けて死ぬ。
繰返す様式の幽霊が、人間に「生きろ」といっている。
レプリカントの死は、折衷主義の終焉を暗示している。ちょっと納得した。
こんなことを考えながらブレードランナーを見る人はきっと少ない。

来週からモダニズム
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。