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建築にオーセンティシティはあるのか? [建築の歴史]

パルテノン神殿(B.C.447-432)
パンテオン(120-124)
アヤ・ソフィア(532-537)

同時代における他の古代建築がほとんど廃墟となったなかで、これらの建築が国家や宗教を超えて生きのこった理由はどこにあるのだろうか。生き残った理由の一因に「オーセンティシティ」はあるのか。

The_Parthenon_in_Athens.jpg
Παρθενών(image source: wikipedia


パルテノン神殿は2回変わり身をしている。古代ギリシャの多神教がキリスト教に取り込まれたのちはキリスト教会堂に転用され(神殿と教会は違う)、オスマン帝国の占領下ではイスラム教のモスクとして使われてきた。戦乱期には火薬庫としても使われ、(そこにヴェネツィア軍が海から放った砲弾がみごとに命中、火薬に引火して全体の2/3が爆破するという)結構な羽目にも合っているけど、今でもアクロポリスの丘に登ればこの目で見ることができる。

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Pantheon source: wikipedia

パンテオンも同様にリサイクルされた。元々は万の神の神殿として建設されたが、ローマ帝国の国教がキリスト教になってからも教会として転用され、今も残っている。(一部の大理石は建材不足で剥がされた)

Hagia_Sophia_Mars_2013.jpg
Hagia Sophia source: wikipedia

今日の授業で聞いたアヤ・ソフィア(ハギア・ソフィアはギリシャ語)は、もともとはビザンティンのキリスト教会として建てられたが、1457年にコンスタンティノープルが没落すると、イスラムのモスクに取って代わられた。平面の十字形はミフラーブに変えられ、モザイク模様は全て漆喰が塗られ、4本の巨大なミナレットも建った。キリスト教教会からイスラム教寺院の転用はかなり無茶だったと想像されるが、それでも破壊されることはなかった。


これらの名建築に共通するのは「転用」されて生き延びているという点だ。

転用された理由には、巨大さゆえに破壊するのが面倒だったというようなポジティブではない要因もあるだろう。しかし、その建築が美しく「本物だ」と誰もが感じてしまうような、ある種の真実性(オーセンティシティ)を獲得していた可能性もあるのかもしれない。
授業後、芸大の野口先生に質問してみた。

野口氏曰く、国家や宗教を超えて建物が残る理由は3つあるという。
厳密な氏の言葉ではないが、1)破壊するのに手間がかかること(規模が大きく技術力が高い)、2)宗教を塗り替えたという事実の証明として使われたこと、3)建築が力強いほどの美しさを持っていること、この3つの要因があるのだそう。

面白いことに、アヤ・ソフィアはその後のトルコにおいて、新たに建設されたモスクのかたちの「規範」になったそうだ。ギリシャ教会を転用したオリジナルではない「異教の」建築であるにもかかわらず、だ。
「建築のオーセンティシティ」を声高に掲げるのは何だか気がひけるのだが、アヤ・ソフィアが新たな様式になったしまった話を聞くと、さすがに無視することはできない気がしてくる。

「建築に国家や宗教を超えるオーセンティシティはあるのか」という問いに対しては、今のところ「少なくともあった」ということはいえる。しかしそもそも「建築のオーセンティシィティ」とは何なのだろうか。真正性や信憑性やといった訳は分かるようで全く分からない。ホンモノ感?それも嘘くさいし。

ひとまずここでは「本物の建築には美しさがあって、それを建築のオーセンティシィティとする」ことにしてみる。すると「美しさ」を感じるのは個々人の主観だから、客観的なオーセンティシティは証明できない。とはいえ、主観的な「美しさ」が、相当数の人数と時代にわたって人々に印象づけられれば、それは最初に挙げたような建築たちと同様にオーセンティシティを持つことになるのだろうか。

「時代を超え、不特定多数の人々に認められた建物が持つ、美しさを備えた質のこと」?

後日談:2014年の夏にローマのパンテオンに行きました。感動した。あれはオーセンティシィティがあったのだけど、うまく言葉にできない。
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